兵庫RC(ランニングクラブ)

小学生から大人まで幅広い層のチームでの様々な連絡や報告、そして私の考え方や理論を上げて行きます。

中長距離で記録向上の鍵

中長距離で記録向上の鍵は、

①ランニングエコノミー(効率の良いランニングフォーム)

②下半身の遅筋と速筋(特にFOG線維※有酸素で働ける筋線維)の筋力アップ

③足を動かす神経伝達群の発達

④血中酸素量のアップ

⑤AT/LT(血中乳酸濃度の上がり始め)の向上

⑥OBLA(血中乳酸量が急激に上がる地点)の耐性

⑦メンタル強化

⑧中長距離の競技種目の最適性

⑨内臓強化

 

※但し、これは人体の特性からの向上の鍵であり、付随的な物(反発性の高いシューズの着用、鉄剤注射やドーピングの着服)は除く

 

①ランニングエコノミー

人にはそれぞれ骨格が違う。そしてその骨格を使った動きの取り方や走るリズムの取り方も人それぞれ違ってくる。なので、全ての人に同じ型をはめる事は出来ない。しかし、全ての人に対して言える事もある。❶接地、❷着地ポイント、❸地面からの反発、❹足の運びです。

❶接地

接地には大きく分けて3種類、フォアフット(つま先着地)、ミッドフット(足裏全面着地)、ヒールストライク(かかと着地)がある。日本人は骨盤が後傾している為、ヒールストライクに成りやすい。しかし、ヒールストライクには大きなデメリットが2つあります。1つは着地時に踵と足全体への衝撃が高い事、もう1つは接地から接地までが踵からつま先への重心移動により時間を要する事だ。この2点からヒールストライクは他2つの着地より筋疲労が大きく、スピードに疑問を残す。

❷着地ポイント

着地は乗り込み時に体軸の真下にある時が主導作筋と拮抗筋とのバランスが取れる。つまり、必要以上の筋収縮(筋肉の力み)がない状態なので、エネルギー効率がもっとも高く、筋疲労がもっとも少ない。ですから、体軸の真下付近に着地意識を持つ事(実際は若干前)が必要です。

❸地面からの反発

走るストライドは足を広げた長さだと良く勘違いされますが、実際は足の接地から接地までをストライドと言います。ストライドを伸ばす、その為には着地した時の地面からの反発を大きく受ける事が必要です。人は足首、膝、股関節と足が屈曲する箇所は大きく分けて3ヶ所あります。着地時にその屈曲が大きければ大きい程地面の反発を吸収してしまうのです。逆に言うと地面の反発を得る為には着地の瞬間に出来る限り関節の屈曲を抑え、足を固めた状態を作る事が必要です。

❹足の運び

足の運びはつま先で蹴ると足が後ろに流れる為、体の後ろ側で円を描くような足の運びになります。こうなると、ふくらはぎの筋肉を使うのとともに足の着地ポイントが足の運びの遅れから前にずれるおそれがある。だから、理想の足の運び方は前運びです。着地してすぐに反対足の遊脚を引き付け「4」の姿勢、そして「7」の姿勢を取って振りださず下ろす。これが無駄の無い動きとなる。

そして、もう1点言えるとしたら、走るリズム(テンポ)を出来る限り崩さない事です。人の走りはリズムの変化に弱い。一定のリズムが崩れると体はストレスを感じる。そのストレスが呼吸の乱れ、心拍の乱れにつながり体力を消耗するのです。

 

②下半身の遅筋と速筋(特にFOG繊維※有酸素で働ける筋繊維)の筋力アップ

下半身の筋力アップは走る運動だけでなく下半身のウェイトトレーニングや補強運動でも可能です。しかし、走力を上げる「使える筋肉」にするのは難しい面も持ちます。更に下半身の「筋力バランス」、必要でない所に筋肉を付けないと言う選り分けが難しい面も持ちます。必要でない所に筋肉が付くと重りになる訳ですから。車で言うトラックではなく、スポーツカーにしなければならないと言う事です。その為に、全否定はしませんが、勾配を使ったり、反発の少ない地面、スピードの緩急などの「走る」トレーニングで筋力を付ける方が、たとえ時間は掛かっても下半身の筋肉の付き具合が良いものになると私は考えています。その上で遅筋と速筋の鍛え方について述べたいと思う。

❶速筋

速筋は大きく分けて2種類ある。酸素を動かすエネルギーに必要としないFG線維と酸素を使ったエネルギーも酸素を使わないエネルギーも両方利用できるFOG線維の2つです。出力はFG線維>FOG線維。そして、トレーニングを継続していく内に、FG線維→FOG線維に徐々にシフトすると学術的に言われている。もちろん、数十秒までで争う短距離に重要なのは速筋でもFG線維。しかし、中長距離においては長く使えて出力の高い速筋FOG線維が重要となってくる。ですから、いかにFG線維をよりFOG線維に変化させ、そして高めるかが、ここでの記録向上への鍵となる。その為のトレーニングは速筋群を高く使い、尚且つ無酸素運動の範囲を越えた辺りのトレーニング、400m~1000mのミドルインターバルやミドルのレペティションが有効だと私は考えています。スピード強度はインターバルで85%~90%、レペティションで95%以上、つまり全力近くで走ると言う事です。坂の勾配を使って負荷を大きくするのも良いでしょう。その場合にも、200mくらいの短い距離ではなく、300m~800mとやや長めの距離で行うのが良いと思われます。

❷遅筋(SO線維)

遅筋の特性は酸素を使ったエネルギーで速筋よりも長時間働きます。そして、速筋ほど大きくなる事はない。出力は遅筋<FOG線維<FG線維と低い。遅筋は小さい負荷で長時間トレーニングしないと大きくならないと誤解されがちですが、強い負荷で短時間のトレーニングで速筋とともに鍛えられます。ただし、負荷の高いトレーニングの頻度が高ければ高いほど故障や怪我のリスクも増える。そして、遅筋をより高く鍛えるのであれば、低負荷、高回数(高時間)の方がより多くの遅筋を活動させるので効果が高い。高負荷トレーニングでの遅筋への影響の仕方と低負荷トレーニングでの遅筋への影響の仕方については、話しが長くなるので、また別の機会に説明したいと思います。遅筋を鍛えるトレーニングですが、基本はjogです。スローjogやLSDも効果的です。時間を掛ければ掛ける程、効果的と言えるでしょう。

※遅筋と速筋を鍛えるトレーニングでクロスカントリー走や砂浜でのjogはスピードを変える事で鍛える筋肉の効果が変わるトレーニングである。速いスピードで走れば速筋により作用し、ゆっくり走れば遅筋により作用する。とても良いトレーニングですので、定期的に入れたいトレーニングです。

 

③足を動かす神経伝達群の発達

これで真っ先に思い浮かべるのは、ドリルと呼ばれる動きづくりだと思われます。その数は数十種類、いや数百種類あるかもしれません。そこから、チョイスして行っているのですが、神経伝達群の発達は幼少期のゴールデンエイジとその前後でほぼ決まってしまいます。そこで、いかに遊びで体を動かしたり、色々なスポーツや運動をしたりしてきたかです。本格的にトレーニングを始める頃には、修正程度的なものとなってしまいますので、そこに長時間要するのは私はナンセンスだと感じます。ですから、日々のトレーニングにほんの数本ウインドスプリント(流し)や加速走でのランニングフォームの確認作業や足のキレの意識付けで良いのではと感じています。

 

④血中酸素量のアップ

有酸素エネルギーに必要なのは栄養で取り込んだ炭水化物と脂質、そして呼吸で取り込んだ酸素である。血中に取り込む酸素量が増加すれば、エネルギー量は増える訳である。血中酸素量を増やす方法は、

❶毛細血管を伸ばし体内の血液量を増やす。

❷心臓から体内に血液を送り込む1回の拍動量を増やす。

❸血液中の酸素と結びつくヘモグロビンの量を増やす。

この3点です。

❶の方法として、LSDレーニングが上げられる。この方法は6'30"/km~7'00"/kmと言う超スローjogを長時間行う事で、体内の毛細血管の末端まで血液を送り込み、少しずつその末端を伸ばして行くと言うやり方である。この場合、超ゆっくり長時間継続して走らないと末端まで血液が送り込まないので、意味を持ちません。❷の方法は、いわゆるスポーツ心臓です。心拍数を低くし、1回の拍動量を上げる。方法としては、心拍を大きく使うスピードトレーニングで徐々にその環境に順応させるやり方が考えられる。❸の方法として、標高2000m以上の高地でのトレーニングが上げられる。人は低酸素の状況下に置かれると自己防衛本能が働き、ヘモグロビンを増やそうとするからだ。また、それとは別に通常の食生活でもヘモグロビンは微量ですが増やせる。それは、ヘモグロビンの成分である鉄分(特に動物性のヘム鉄)とたんぱく質、そして生成を促すビタミンCを普段の食事から摂取する事である。また、鉄剤注射で鉄分を一時的に過剰摂取する事でヘモグロビンを増やす事も出来るが、内臓への負担が大きく、今後の生活に影響を起こすので止めるべきです。日本陸上競技連盟でも規定違反では無いが人体に影響を及ぼすので止めるよう発信しています。

 

⑤AT/LT(血中乳酸濃度の上がり始め)の向上

 AT/LTとは感覚で言うと走るペースを徐々に上げて行った時に、少しきつくなったかなと言う地点を表す。つまり、有酸素系のエネルギーだけでなく無酸素系のエネルギーも使われ始める地点です。血中乳酸濃度が上がり始める地点です。このAT/LTを向上させる為のトレーニングとして、AT走(LT走)が良い。AT走はいわゆるペース走(テンポ走)です。ただし、AT値を越えない有酸素エネルギーの範囲(出来れば限界ギリギリ)内で行います。LSDと同様で有酸素能力を高めるトレーニングですが、LSDが車で例えるとガソリンタンクを大きくするのに対して、AT走はエネルギー効率と言う「燃費」を高めるトレーニングです。

 

⑥OBLA(血中乳酸濃度が急激に上がる地点)の耐性

OBLA(Onset of Blood Lactate Accumulation)は有酸素エネルギーだけでなく無酸素エネルギーも使っていく中、急激に血中の乳酸濃度が上がり出す地点である。この域に入ると体自体の心拍が上がり、とてもきつい状態となる。血中乳酸濃度はだいたい4mmolから始まります。ここをどれだけ長く耐える事が出来るかで、中長距離でののタイムが大きく変わってくるかと行っても過言ではありません。ここを強化するトレーニングとして、心拍を上げ下げする「インターバルトレーニング」や心拍を一気に上げきり、落としてまた上げきる「レペティショントレーニング」、一定の高強度で走り続ける「ハイペース走(テンポ走)」、心拍が上がる後半になればなる程ペースを上げていく「ビルドアップ走」、インターバルトレーニングをロング走の中に落とし込む「変化走(ウェーブ走)」など他にも色々なスピードトレーニングと言われる方法があります。その中でも私がもっともお薦めするのは傾斜のある上り坂(出来れば勾配11~13度)を800m~1000mまで一気に駆け抜ける坂道TTである。なぜなら、このトレーニングでは心拍は一瞬で上がり、血中乳酸濃度もOBLAの域に達する。そこから、乳酸濃度がどんどん上昇する中をただひたすら耐えるトレーニングだからである。更に利点は速いスピードではないのと上り坂と言う事で、足への衝撃による負担が低いと言う事です。お薦めです。

 

⑦メンタル強化

メンタル強化とはメンタルをトレーニングする事で、現在、近い未来、遠い未来、もっと細かく言えばレース前や練習前での不安要素を解消し、希望などの良いイメージを頭や心の中に植え付ける事である。

❶現在

自分の今置かれている状況、力を冷静に分析する。現在の全てが決して悪い訳ではないはずであると楽観的に捉える。その中で良い部分を何点か見つけ、自信につなげる。

❷近い未来

今、近々で目指している事を頭に思い浮かべる。そして、それを達成する為に自分は何をすべきかを箇条書きする。簡単な事から箇条箇条書きするのが良い。一つ一つを消化し、達成する事で自信につなげ、そしてそれを確信につなげる。達成しなくても悲観的になる必要はない。またそこから、次はどうすべきかを考えれば良い訳だから。

❸遠い未来

自分が目標とする未来を、それがとてつもなく大きな目標でも、怯む事なく掲げる。そこから、その目標に進んでいく為の小さな目標を未来から現在に渡って掲げる。その一つ一つをクリアする事で自信を確信に変える。たとえ小さな目標が達成しなくとも悲観する必要はない。また、新たな目標を掲げ先の目標を修正すれば良い訳だから。

❹レース前の不安

不安になるのは、自信がないから。そして、そのレースに意識過剰になるからである。まずは、勝てなかったらとか記録が出なかったらとかと言うレース後のマイナスイメージを考えない。逆に、レースに出たら楽しいだろうなとか、楽しい時間をずっと続けていたいなどレース中のプラスイメージを頭に思い浮かべる。レースに参加する自分も応援する回りの人達も「頑張ります」「頑張って」はNGワードだ。極力使わないようにする方が良い。それが自分にプレッシャーを掛ける暗示となってしまう為。そう、「楽しみます」「楽しんできます」と伝える方がよい。また、レース前になれば極度に緊張をし、普段のようには結果が伴わない方には、当日の朝からレースまでの何かルーティンを決めると良い。靴を右から履くとか簡単なもので構わない。これをすれば落ち着くと言う暗示を強制的に掛けてしまうのだ。人の心は思う程強くはない。意外と、このルーティンによる暗示は効果があります。ただし、ルーティンを次から次へと付け足したり、多過ぎるのは後々大変な作業になってしまうので、出来る限りシンプルに数個までと抑えた方が良い。

❺練習前の不安

練習前の不安は、大半がスピード練習などの強度の高いトレーニングの前の「しんどい」や「嫌だ」と言うマイナスイメージからの緊張からなる。逆に言えば「この練習で強くなる」「楽しみ」と言うプラスイメージを持っていれば、緊張からは少し解放されるので試して頂きたい。

 

⑧中長距離の競技種目の最適性

人それぞれ、中長距離と限られた種目にあったとしても、最終的にはその中のどの種目に最適性があるかは分かれてくる。たとえ満遍なくどの種目をこなしている人でも、その中のどの種目が最適かはある。なぜなら、身長や体重、骨格、遅筋と速筋比率、性格が人それぞれ違う訳だから。すぐにその答えが見つかる人もいれば、すぐには見つからない人もいる。だからと言って探さずに競技生活を終える訳ではなく、探し続けて最適性を見つけるべきだと感じる。意外と周囲の人の方がその方の適性に気づく場合がある。だから、周囲の意見を聞き流さず参考にはすべきだと私は思います。その種目の最適性が、その方本人の力を発揮できる近道となるはずだから。

 

⑨内臓強化

足に痛みがあるとか、足の筋肉が張っているとか、見た目や表面に現れる事で好不調を実感される方が多いかと思う。しかし、内臓の疲労で良いパフォーマンスを発揮出来ない事も多いのだ。理由が分からないけど調子が上がらない時はそんな時だ。内臓は疲れても痛みを表さない。だから、そんな感じになる。逆に言えば、内臓を強化さえすれば、トレーニングで積み上げた物をマイナス部分少なくレースで発揮する事も可能となるのだ。その為には、暴飲暴食を避けるのは当然の事、栄養面、睡眠もしっかり管理する事が重要です。特に栄養面ではミネラルや、ビタミンは調子を整える効果があるので大切にしたい。もちろん、他の栄養もどうでも良い訳ではありません。

 

さて、長くはなりましたが、今述べた①~⑨は記録向上の鍵だと私は考える。それだけ記録向上には複雑な要素が絡んでいると言う事です。自分は出来ているはずなのに結果が伴わないと感じている方、一度この中の何が欠けていたか自分自身に問うてみてはいかがでしょうか。きっと、活路が見えてくるはずです。